投影性同一化

投影性同一化

この私の一連の研究のKey概念である投影性同一化。

なかなか難しい概念ですが、二歳の息子と私とペットボトルの話など使いながら、講演では必ず紹介させていただいております(講演録のページや、小冊子もどうぞご参考に・・)。そのペットボトルの話では、こどもがどんなふうに言葉にならない感情を大人に投げ込み、それをどのように大人が処理し返すのか。それがなぜ、発達促進につながるのか、という話をさせていただいておりますが、

 

こちらの側面の投影性同一化も大事なんじゃないかと思い、以下に私の体験を書かせていただきます。

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年中さんの息子は、お手紙大好き。もらっては返事をし、お友達に「ちょうだい」と言われれば張り切って書いて、という日々。

その日も、お友だちからもらったお手紙にお返事を書こうと準備を始めた。そして、急に思い立ったように息子が言った。

「そうだ!Tくんに手紙書く!」

Tくんはちょっとやんちゃで、息子は怪我させられたり、仲間に入れてもらえなかったり、いろいろ嫌な思いをしている子という認識だったので(いや。もちろん、相手が一方的に悪いとかではなく、関係性の問題だろうけど)、私は正直、よく思っていなかった。だから、

「え?何て書くの?」

と、書こう書こう!というノリではない形で聞いた。すると、

「仲間に入らなくてえらいね、って、言ってくれてありがとうって」

…どうやら、仲間に入らないでと言われて、諦めたら、ほめられたということらしい。

うーーーん。。

しかし、本人が書きたいというから、書かせた(これは私にとってかなり我慢を要することであった)。そして、本人、便箋前にして悩みだした。

「ママ、何て書いてほしい?」

「ママは書いてほしいことない。あなたは何て書きたいの?」

私の心がモヤモヤしていたから、そんな感じでそっけなくしか答えられなかった。けど、やり取りしてたら息子は、

なかよくしてね。だいすき。

と書いていた。

すごいなあ、えらいなあ。私にはできないなあ、と思いました。

でも、次の日。電車の中で一人、その時のことを考えていて、

息子の横で手紙を書くのを見ていた私がモヤモヤして、なんならイライラしていたあの変な気持ちは、息子が、やるせなさとか友達の中での難しさを、投影性同一化で預けてくれてたものだったのか。。と気づいたのでした。

つまり、息子は、私にモヤモヤやイライラを預かってもらっていたからこそ、「なかよくしてね、だいすき」というすっきしたことを書けたのだろうと理解したわけです。

後日、T君と息子は、よく一緒に遊ぶようになっていました。


きっと、息子の小さな心と体では抱えきれなかった、T君への複雑な感情をママに預けたからこそ、一番言いたいすっきりした欲求を美しく記せたんだと思います。

けれど、ここで私が抱えることに耐えられないで、「T君なんかに手紙書かなくていい!」とか「T君なんか無視したらいいでしょ!」とか、白黒つけるような態度、Negative Capableでない態度に陥っていたら、彼はT君への複雑な感情をまた自分で抱えなくてはいけなかったでしょうね。

親は、子どもの肩代わりをして、もやもやさせられるということがあるんでしょうね。あるいは、親でなくとも、教師や支援者であっても。代わりに大人がもやもやしてあげていることで、子どもが助かっていることってたくさんあるのかもしれません。

 

 

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